缶ヶ江メグルは進撃の巨人が好き

壁の向こう側に行く

『進撃の巨人』23巻あらすじ 4年後 大陸のエルディア人の話

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第91話 海の向こう側

 

パラディ島でエレン達が海に辿り着いた時から約4年、その間、海の向こう、マーレ国は中東連合国とずっと戦争をしていた。それも今大詰めで、マーレが敵の軍港にいる中東連合艦隊を沈めれば勝ちというところまできていた。しかし軍港の近くに高台があり、そこを陣取っている敵軍のスラバ要塞が邪魔をしている。巨人を兵力に擁するマーレ陸軍は今、スラバ要塞の目の前まで来ており、何としてでもこの要塞を落とすことが目下の任務であった。

 

要塞外壁から離れた塹壕(ざんごう)の中で、マガト隊長率いるマーレ陸軍部隊が作戦を練っていた。部隊を構成するのはほとんどがエルディア人の戦士隊で、800人もいる。彼らの指揮を執るのがマーレ人のマガト隊長とコスロ副長だ。他に、マーレの戦士候補生の子どもも5人いた。一人は獣の巨人の継承予定者、コルト・グライス。あとの4人は、任期があと2年に迫っている鎧の巨人の継承候補者で、ガビ、ファルコ、ウド、ゾフィア。マーレ国が予算を大きく割いて鍛えてきた候補生をなぜこんな危なっかしい戦闘の最前線に連れてくるのか…。ガビは、それは次の「鎧」継承者に誰がふさわしいかをマガト隊長が見極めるためだと言うが…。

 

戦局は滞っていた。敵の塹壕とトーチカ(機関銃や砲台などを備えた、コンクリート製の堅固な小型防御陣地。ロシア語)は隙が無く、どこから歩兵が攻め入っても撃たれてしまう。そこでコルトは顎(あぎと)の巨人と車力(しゃりき)の巨人を放ち、速攻で塹壕とトーチカを殲滅させる案をマガト隊長に進言する。

しかし隊長はダメだと言う。なぜなら、要塞を囲むように線路が引いてあり、そこを対巨人砲を搭載した装甲列車が走るからだ。対巨人砲は連合国側の新兵器で、100mmの口径から放たれる徹甲弾は巨人の体を撃ち抜く。もし顎と車力を放って、うなじを撃ち抜かれたら終わりだ。なのでマガト隊長は、800人のエルディア人戦士隊(歩兵)を突撃させ、装甲列車を破壊する作戦を準備していた。

 

その時、装甲列車がマガト隊長たちのひそむ塹壕に一番近い線路を選んで走ってきた。…チャンスだ。

 

「それ私にやらせて下さい」ガビがマガト隊長に話しかける。

「あ?」

「私なら一人で装甲列車を無力化できます」

「お前らを鍛えるのに国がいくら費用をかけたと思ってる?却下だ」

 

確かに私はファルコ達なんかと違って逸材ですし、今後私のような優秀な戦士は二度と現れないでしょう。しかもすごくかわいいし。ですが私が成功すれば800人の戦士隊を失わずに済みます。

 

「失敗すれば?」

「一人の有望な戦士候補生と、7本の手榴弾を失います」

 

やはり…私に800人の戦士隊以上の価値があるとなれば仕方ありませんが、隊長殿がもし…私を愛するあまり800の兵を捧げるということでしたら――

 

「わかった、行け」

「必ずや私が『鎧』を継ぐに値する戦士であることを証明して参ります」

 

ガビは兵服を脱ぎ、マガト隊長から腕章を外す許可をもらい、敵にエルディア人ではないとアピールしつつ、両手を上げて 投降しに来る風に 線路の方に近づいてゆく。手榴弾を足にかけて引きずりながら…。トーチカの兵士はガビを発見するが、撃つかどうかためらっている。ガビは十分に近づいた所で地面に倒れ込み、足に引っかけていたロープを外し、手に持つ。敵兵はまだ撃ってこない。

装甲列車がガビのいる近くにやってくる。

 

「ここ――ッだぁ!!」

ガビは手榴弾のピンを抜き、線路に向かってぶん投げる。手榴弾は線路の上に落ち、装甲列車がそこを通る時、爆発した。ドオオォォオォォン!!

 

装甲列車は爆発で車体が浮き上がり、脱線してトーチカと塹壕の側に横倒しになった。ガビは「ぎゃあぁはははは…」と大声で叫びながらダッシュで逃げる。

 

装甲列車は無力化され、巨人の脅威はなくなった。マガト隊長は迅速に指示を出す「ガリアード(顎の巨人の人)急げ!!」

トーチカからガビを狙ってマシンガンが撃たれる。ガガガガガガガガ…

「ガビ!!」ファルコは夢中で塹壕から飛び出し、ガビの元へ走る。

ガビは一番近くの塹壕に飛び込み、ファルコもほぼ同時にその塹壕に飛び込む。その時、顎の巨人が駆けつけてきて銃弾からガビを守った。ファルコはガビに覆いかぶさるようになって、ガビを守ろうとする(あまり意味はないかもしれないけど)。

 

 

顎の巨人は銃弾をものともせずトーチカに突っ込み、片手で破壊する。そのまま塹壕にいる敵を端から手で潰してゆく。800人の戦士隊も出撃、車力の巨人も駆けつけ、敵のトーチカと塹壕を潰しにかかる。敵の防御線は一気に崩れてゆく。

 

マガト隊長がコルトに話しかける「お前はこれをどう見る?」

「敵前線の打撃は十分と見ます。戦士隊は前線から撤退し 敵の退路を確実に塞ぐべきかと。後は…空挺部隊次第です」

「その通りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第92話 マーレの戦士

 

ヒュウウゥゥゥ… パァァァァン! 空高く花火のような弾が撃たれる。撤退の合図だ。巨人を除く800人の戦士隊は急いで要塞から離れる。要塞の上を見上げると、飛行船が飛んでいる。ジークとライナーが乗っていた。

飛行船からパラシュートを開いた人がたくさん放たれる。

 

「ウォォォオオオオォォォォオオォォ!!」

 

ジークが叫ぶと、パラシュートの人は皆「無垢の巨人」に姿を変えた。

巨人達は急降下して、雨のように要塞に降り注ぐ。ドドドドドドドドド…!!

 

落下した巨人の半分くらいは打ちどころが悪く死んだが、もう半分はむくりと起き上がって、近くにいる敵兵を捕えて食いはじめる。しかし敵も対巨人野戦砲で巨人のうなじを撃ち抜き、抵抗してくる。

 

 

ライナーは飛行船から飛び降り、鎧の巨人になって要塞の中に侵入する。

片っ端から敵の砲台を潰してゆく。敵も徹甲弾を鎧の巨人に撃ってくる。命中した個所は硬質化の鎧も貫いている。それでも顎の巨人に助けられながら、鎧の巨人は要塞内の全ての砲台を破壊する。鎧の巨人は空へ手を上げて合図する。

空からはジークがパラシュートで降りてきており、ライナーの合図を確認すると獣の巨人になって着地した。

 

獣の巨人は要塞内の徹甲弾の弾を片手で掴めるだけ拾って、以前パラディ島でエルヴィン達に岩の塊を投げたみたいに、軍港の艦隊めがけて豪速球で投げた。その時、敵軍艦から獣の巨人を狙って一斉に砲撃が撃たれた。

 

「ええぇ…?!」

獣の巨人は予想してなかった攻撃に反応できなかったが、すぐに鎧の巨人が駆けつけて獣の巨人の前に立ち塞がり、代わりに砲弾を受けた。鎧の巨人は首から下が吹っ飛んだが、おかげで獣の巨人は無事で、敵軍艦を全て沈めることに成功した。

 

 

連合艦隊の壊滅を受け、中東連合はマーレとの講和条約を締結。4年に及んだ戦争はマーレの勝利で終結した。だが世界には巨人の力がすべてを支配する時代が終わりつつあることを知られ、マーレは一刻も早く「始祖の巨人」を手に入れる必要に迫られた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第93話 闇夜の列車

 

スラバ要塞近くの、戦場となった街、天井が崩れた建物の一室で、マーレ軍の幹部が集まって会議をしていた。

 

半島の自治権を巡る戦争に4年も費やした挙げ句、敵戦艦とこちらの主力の巨人2体があわや刺し違える失態を演じた。「人類の英知は遂にマーレの鎧を粉々に砕くまでに至った」どの国もそう報じ 中東連合国を讃えている。

 

「これが……彼の大国マーレの勝利だと言えるのか? マガト、これはどういうことだ?」

マーレ軍の元帥は尋ねる。

 

「元帥殿…いよいよその時が来たのです。人類が巨人の力を超える……その時が」

 

まずこの戦争の大半を占めた海戦において我々の巨人兵力は介入の余地が無かった。単純な海上戦力で比較するなら、連合の最新鋭の戦艦に対し我々は物量頼みの旧式の艦隊。しかし海軍が役に立たなかったというわけではなく…

 

すべては巨人の力にあぐらをかいたツケが回ってきた。それに尽きます。

 

我々が巨人の力を過信し植民地政策を進める中、巨人の力を持たぬ諸外国はそれに抗うべく兵器の開発に力を入れた。その純然たる結果を今突きつけられているのです。

それでも我が巨人兵力は当分の間、陸上戦においては無敵を誇ることでしょう。

 

…しかし、このまま航空機が発展していけば、いずれは何百キロもある爆弾が雨のように降り注ぐと言われています。その時には戦争の主戦場は空へと移り、大地の悪魔たる巨人はただ空を見上げ続ける他なくなるでしょう。

 

…部屋に沈黙が流れる。

 

「恐れながら…元帥殿。進言のご許可賜りたく存じます」ジークが口を開く。

「『驚異の子』ジークよ、言ってみろ」

 

「今こそパラディ島作戦を再開し、始祖の巨人の奪還を急ぐべきです」

「お前は…話を聞いていたのか?巨人の力に頼っていてはマーレに未来は無いのだ」マガトが口を挟む。

 

えぇ……マガト隊長の仰る通り、マーレは今後通常兵器の開発に力を注ぐべきです。しかしマーレの科学力が十分な水準に達するまで、マーレに仇なす国々は黙っているでしょうか?

今我々に必要なのは軍備再編までの空白を埋める時間。そのためには一刻も早く「マーレがパラディ島を占拠しすべての巨人の力を手に収めた」という新聞の見出しが必要なのです。

 

元帥「うーん…。お前の『任期』はあと1年足らずだったな……」

「えぇ…コルトが私の『獣』の能力をすべて引き継げるのか…私はとても不安でして…」

「そうだな…。…残り1年の命をもって4年前の雪辱を果たしたいというわけか」

「その通りでございます。あの忌まわしき驚異、グリシャ・イェーガーの行いに終止符を打つのは、かつての息子である私でなくてはなりません」

「さすがは『驚異の子』。幼子が親を売って示したその忠義、一度だって疑ったことは無い。お前の進言を党の議題に挙げてみよう」

 

会議はそこで終わる。

 

 

ジークとコルトは近くの建物の屋上で一服していた。

「悪かったなコルト。お前をダシにしちまって」

「…いえ。素晴らしかったです……。エルディア人がマーレ軍元帥に意見を通すなんて。それに一役買えたなら光栄なことですよ。…それに、実際その通りなんですから……。僕に今の『獣の巨人』の代わりは務まりません。…ジークさんは特別です」

 

あなたの脊髄液を投与された同志は、あなたが叫べば巨人になるし言うことも聞く。月が出ていれば夜にだって動ける。こんな能力歴代の『獣の巨人』にも無かったのに…。まるで話に聞く『始祖の巨人』だ。…どうしてジークさんは特別なんでしょう?王家の血を引いてるわけでもないのに。

 

(ジークは、母ダイナが王家の血を引いていることを秘密にしているらしい。クルーガーの読みとは外れている)

 

「さぁな…巨人学会の連中もお手上げらしい。結局俺が死ぬまでわからずじまいだろう。…あ。記憶を継承するお前には知られちまうかもな…コルト。俺の秘密を」

「秘密…ですか?」

「ケツの拭き方が独特なんだ。誰にも言わないでくれ」

「ダメだすべて話せ」マガト隊長がやってくる。

「ケツ毛の数まで申告してもらう。エルディア人にプライバシーは必要か?」

「隊長殿!!必要ありません!!」両手を上げるジークとコルト。

 

「密談の邪魔をしてしまったな。続けてくれ」

「エルディア人のケツに興味がおありですか?」

「ふっ…。さっきの会議はうまくいったなぁジーク。20年以上お前を見てきたが…未だ底知れぬガキのままだ」

「やだなぁ…買いかぶりすぎですよ隊長」

「1年でパラディ島を陥とせるらしいな」

「…私には1年しか残されていないという話ですよ」

 

この3年間、パラディ島に向かった調査船団は1隻も帰ってきていない。3年間で駆逐艦を含む32隻が島に消えたのだ。

ジーク、お前はこれをどう見る?

 

「私は…パラディ島勢力が保持する巨人は4体だと考えます。『始祖の巨人』『超大型巨人』『女型の巨人』『進撃の巨人』。『始祖』と『進撃』はエレン・イェーガー一人が身に宿しているとの見方が有力ですが。『超大型』と『女型』は現在も不明。両名が死んだとなればその力を宿した赤子が誕生するはずですが、こちらの大陸側では発見されていません。そうなると4体の巨人はパラディ島で運用されている可能性がある。

 

ことは22年前革命軍の残党「フクロウ」が隠し持っていた『進撃の巨人』とグリシャ・イェーガーを島に送り込んだことから始まった。そいつらの撒いた火種が島全体に燃え広がっちまったんでしょう。フリッツ王家は名をレイスに変え無抵抗主義を貫く姿勢であったようだが『進撃の巨人』にレイス王は食われ…継承の術と共にすべてを奪われた。

 

隊長……私の見立てはこうです。軍の船が逃げることも許されず、32隻も沈められたのなら、それは巨人1体の仕業とは考えにくい。少なくともエレン・イェーガーを含む巨人が2体以上、調査船に立ち塞がったのではないでしょうか」

 

「同じ意見だ。島を攻めるには戦艦の支援が必要になるだろう」

 

「えぇ…そして何より、敵の脅威は巨人だけじゃない。おかしな機械をつけた連中が両手に剣や爆弾を装備して飛び回るのです。巨人を殺すことだけを考えた武器だ。私の失態はその武器を甘く見積もったこと。そして王家の伝承のみの存在と思われていた一族、巨人化学の副産物 アッカーマン一族と思わしき存在が少なくとも二人。…正直、奴にはもう会いたくありません…」

 

 

 

 

 

一方、スラバ要塞近くの、戦場にはならなかった街。ベッド2コと机が1コしかない簡素な宿部屋で、ライナーはリヴァイやミカサに殺されかけた時のことを夢に見て、目が覚める。

 

「楽しい夢でも見てるみたいだったから起こさないでおいてやったよ」ガリアードはサンドイッチを食べながら、机に向かって書き物をしている。

「…あの時(スラバ要塞でライナーを狙っていた徹甲弾の砲撃手を潰してくれたこと)の礼を未だ言ってなかったな…。ガリアード…助かったよ」

「礼には及ばん。俺が助けたのはお前じゃない。お前が『鎧』を失うヘマから祖国マーレを救ったまでだ。…そもそも9年前のパラディ島作戦に俺が選ばれて、俺が『鎧』を継承していればこんなことにはならなかったんだ。アニキがお前をかばってその辺の巨人に食われることなんてなかった」

「マルセルの記憶を…見たのか?」

「いいや残念ながら。お前がアニキを置いて逃げる様はまだ見ていない。だが…前身のユミルって女のことは少しわかった……大層な名前をつけられた哀れな女だ。アニキの『顎』を返してくれたのもあの女の意志だろ?」

「あぁ…そうだ」

「…じゃあお前はあの島で何をしたんだ?誰かに助けられてばかりじゃねぇかよ」

「…あぁ…」

「女の記憶を通してお前を見たが…ありゃ何だ?ずいぶんと頼れる男を気取っていたようだったが…。ありゃ…まるでアニキの真似事じゃねぇか」

「…その通りだガリアード。お前の言ってることはすべて正しい」

「…あ?」

 

カチャッ 『車力の巨人』の持ち主のピークが部屋に入ってくる。

「ポッコ、艦砲射撃を食らった人をいじめちゃだめだよ」

「…その名で呼ぶなって言ってるだろピーク」

 

ライナーがピークに尋ねる「…大丈夫か?」ピークは左脇に松葉杖をついている。

「人間に戻るのは2ヶ月ぶりだからね。その度に二足歩行を忘れてしまうよ(つまりケガをしているのではなく、ただ歩くために杖をついていると)。それよりライナー、もう起きれるようになったんならガビ達に顔を見せてあげなよ。すごく心配してたよ」

「そうしよう」

ライナーはベッドから腰を上げ、部屋を出ていく。

 

 

ライナーは街の船着き場にいた戦士候補生のガビ、ウド、ゾフィア、ファルコと一緒に、街を回る。候補生の子たちはライナーが元気になったのを嬉しそうにしている。特にガビは。

 

 

戦士隊たちはその夜、列車でレべリオ収容区まで帰ることになっていた。

その車内、コルトは酒に酔った勢いで大騒ぎしていた。今回の戦場でのガビの活躍を讃え、戦士隊の皆と一緒になってガビコールを唱えている。ガビもそれに乗っかって、歓声を上げる。

 

「また見事に担がれたな」ライナー

「兄に酒を飲ませるのが悪いんです…ガビの奴もすぐ調子に乗るから…」

「しかし…実際に『鎧』の継承権を獲得するのはガビになりそうだ」

「…そうですね。あなたの任期はあと2年ですから。あなたを慕う少女がこのまま順調に『鎧』を継承すれば…ガビの寿命は27歳…艦砲射撃の的にならなければですが。…あなたは…それでいいんですか?」

 

ライナーがかがみ込んで顔をファルコの真横に持っていく。すごく険しい形相で。

「今…お前…何って言った?『九つの巨人』を継承する名誉を冒涜したのか?これは直ちに隊に報告しなければならない」

「え…」

「俺じゃなくても誰かが聞いていれば即密告だ。そうなれば…コルトは『獣』の継承権を剥奪されるどころか、お前は親族と共に巨人兵器に加えられる。次に飛行船から投下されるのはお前ら謀反人グライス家一行だ」

「ま…待って下さい。発言を訂正させて下さい」ファルコは血の気の引いた顔で答える。

「戦士候補生ファルコ・グライスは己と一族を悪しきユミルの血から解放するべくこの血を生涯マーレに捧げます」

「では『九つの巨人』を継承する名誉を何と心得る」

「名誉マーレ人として栄誉と誇りを授かり、祖国マーレへの忠誠を存分に示す権利が得られることと存じます」

「お前は…『鎧の巨人』を継承したいのか?」

ファルコは一回視線をガビに移し、切なそうな表情になる。しかしすぐライナーに向き直り、まっすぐ2つの眼を見開いて言う。

「『鎧の巨人』を継承するのはオレです」

ライナーの表情から険しさが消える。

「そうだ。ガビを守りたいならお前がガビを超えるしかない」

「……?…え?」

ライナーは両手をファルコの肩に乗せて、少し哀しい顔をする。

「お前がガビを救い出すんだ。この真っ暗な俺達の未来から…」

 

ガタンゴトン…ガタンゴトン…

列車は闇夜の中、レべリオを目指し走る

 

 

 

 

  

 

 

第94話 壁の中の少年

 

翌朝、列車はレべリオに到着。

…ブラウン副長…ファルコは列車を降りて歩きながら、ライナーの方を見やる。

 

4年前は…パラディ島作戦失敗の責任を一手に引き受けて『鎧』を剥奪される寸前の危うい立場だったけど、命を賭した戦果の数々でマーレへの忠誠を証明し、今や『鎧』の剥奪なんて声はどこからも聞こえなくなった…

 

そうだ…昔からどの戦士よりも高い忠誠心をマーレに示してきた。それがライナー・ブラウン戦士隊副長だ。

でも…昨夜の副長は何だ?俺にガビを救えって?他の人に聞かれでもしてたら危険な話を自らオレに…

ブラウンさんはオレと同じ考えで、エルディア人を戦争から解放したいと思っているんだろうか…。だとしたら、信じて…いいのか…?

 

 

駅から収容区までは街を隊列組んで歩くが、街の人(マーレ人)の目は冷たい。でも戦士隊の人は皆そんな目気にしないかのようにまっすぐ、堂々と前を向いて歩いてゆく。

 

そして戦士隊一行は収容区に到着し、各々待っていた家族の元へゆく。皆家族との再会に喜んでハグしたり、「無事で良かった」「立派に務めを果たしたな」とねぎらいの声をかけられている。

 

ガビはライナーにとって従妹(いとこ)になるらしく、今日はライナーの母カリナが家でお祝いをすると言う。

 

 

夜、ライナーの家ではブラウン家が会食をしていた。

ガビが、スラバ要塞で一人で装甲列車をつぶしたところを熱っぽくしゃべっていた。

 

「そこでバタッと倒れたの!トーチカの敵は案の定女の子の私を撃つのをためらってくれたんだけど、それでも私はいつ撃ち殺されてもおかしくない状況だった。

そんな中で装甲列車が来るのを待った。そしてここしかないってタイミングで爆弾をぶん投げたら……ドッカーン!!

狙った通り!!装甲列車は脱線してひっくり返った!!私の作戦大成功!!」

 

おおおぉ…!皆から歓声が上がる。

 

「でも敵は逃げ去る私に機関銃を撃ってきた!!穴ぼこめがけて必死に走ったよ!!私は鉛玉を食らう寸前のところで―― …ガリアードさんが『顎の巨人』で私を守ってくれて助かったの」

「すごいわガビ!!」ガビ母

「お前はエルディアの救世主だ!!」ガビ父。ガビの頭をわしわしとなでる。

 

するとカリナ「ライナー。ガビは戦士になれそうなのかい?」

「あぁ…今回の戦果を踏まえても、ガビが『鎧の巨人』の継承権を得るのは決定的だと思う」

「それはよかった…一族から二人も戦士を授かるなんて、お前達がマーレに認めてもらえたことを誇りに思うよ。あとは…あの島に住む悪魔共さえ消えてくれれば…エルディア人はみんな幸せになれるのにね」

 

ガビ「…大丈夫だよカリナおばさん。私達戦士隊が島の悪魔からエルディア人を守るから、心配しないで」

「…ありがとうガビ」

 

名もなきブラウン家の一人の男性「戦争には勝ったが、依然として…いつ島の奴らが世界を滅ぼしに来るかわからない状態のままだ。こんな状態じゃ世界中の人々がエルディア人を恐れるのも無理はない」

 

ガビ父「なぁ…ライナー。お前でさえ島の悪魔から逃げるのがやっとだったんだろ?世界一の軍事力であるマーレの『鎧』でさえ…」

 

ライナーは沈黙している。

 

「ダメだよみんな…そんなこと聞いちゃ。島の内情はマーレ軍でも上の人しか知ることができない機密情報だって言ってるでしょ?それに…ライナーだって辛いんだから。

 

凶悪で残虐な悪魔たちの住む島に5年も潜入してたんだよ?そこでどんな辛い目に遭ったか…機密情報じゃなくたって言えないんだよ」

 

「そうだな…わが甥よ悪かった」ガビ父

「お前の立場も考えずに…」名なしのブラウン家男性

 

ライナーが実際にパラディ島で経験したことと、ガビ達が想像していることとの間にはギャップがある。マーレはレべリオ収容区のエルディア人に、パラディ島のエルディア人は滅ぼすべき悪魔だと教育しているようだ。

 

「…いいや話せることもある。俺はあの島で軍隊に潜入したんだ。まさに地獄だった。島の連中はまさしく悪魔で残虐非道ま奴らだったよ。

あれは軍の入隊式の最中だった…突然芋を食い出した奴がいた。教官が咎めると、悪びれる様子もなく答えた。うまそうだから盗んだと。そんな悪党だが、さすがにまずいと思ったのか、その芋を半分譲ると言って教官を買収しようとしたんだ。しかし…その差し出した芋でさえ半分には到底満たない僅かなものでしかなかった。奴らに譲り合う精神など無いからな。

 

本当に…どうしようもない奴らだった。

便所に入るなりどっちを出しに来たのか忘れるバカだったり、(コニー)

自分のことしか考えてねぇ不真面目な奴に、(ジャン)

人のことばっかり考えてるくそ真面目な奴、(マルコ)

突っ走るしか頭にねぇ奴に、(エレン)

何があってもついて行く奴ら。(ミカサ、アルミン)

 

それに…色んな奴がいて、そこに俺達もいた」ライナーは訓練兵時代のことを思い出して少し穏やかな表情が出る。しかしハッと気付いたのかすぐ険しい顔に戻り、口を開く。

「そこにいた日々はまさに地獄だった」

 

皆しぃんと静かになってライナーの話を聞いていた。

 

「…少し話しすぎた。この話は忘れてくれ」

「いろんな奴らって何…?悪い奴らでしょ?」ガビ

「そうだよガビ…島にいるのは悪魔だ。世界を地獄にして屍の山に自分たちの楽園を築いた悪魔だ。

でも私達は違う。私達大陸のエルディア人は生涯を捧げてマーレに及ぼした凄惨な歴史を償う、善良なエルディア人なんだから。島の奴らはいつ強大な巨人で世界を踏み潰し進撃してくるかわからない。それを阻止するのは私達エルディア人でなくてはならない」

「うん」

「それが果たされて初めて私達は世界から良い人だと認めてもらえるんだから」

「うん」

「私達を置き去りにして島に逃げた奴らに…制裁を与えなくてはならない。私達を見捨てた奴らに…」

 

ライナーのうっかり話し過ぎたのをフォローするように、カリナはガビに言い聞かせた。その目には強い憎しみの思いが込められているように見える…

 

 

深夜。ライナーは自分の部屋のベッドで仰向けになって宙を見ている。

ライナーが子どもの頃、母カリナに言われたことを思い出していた…

 

――私達は見捨てられたんだ…だから壁に囲まれた収容所に住んでいるんだよ。私達には過去に悪いことをした悪魔の血が流れているからね。檻の中に入っていないとみんなの迷惑になるんだ。

 

お前にお父さんがいないのもそのせいだ。お父さんはマーレ人だからね。マーレ人はエルディア人と子供を作ることを固く禁じられているから…。だから…このことは秘密だよ?

 

「うん」

 

私達が悪魔の血を引くエルディア人だから…あの人とは一緒にはいられないんだよ。…マーレ人に生まれていれば…

カリナは泣きながらそう言った。

 

 

そうだ…あの頃俺は、母とマーレ人になるために戦士を目指したんだ…

 

思いリュックサックを背負い、大きなライフル銃を抱えながら走る体力試験。ライフル銃の射撃試験。武器を持たないで闘う試験…。あらゆる試験でライナーよりも能力の高い誰かが戦士候補生に合格してゆく。

 

クソックソックソッ…! ライナーは焦る。

 

その後試験がすべて終わり、幸運にもライナーは戦士候補生に選ばれる。

 

 

 

そしてある日の戦士候補生の訓練の時、休憩中に、訓練の教育を任されているらしいコルトから思わぬ朗報を聞く。

「お前ら知ってるか?あと数年でパラディ島に攻撃を仕掛けるってさ。俺達が巨人を継承する時が来たんだよ。

もうじき南との戦争に目処がつく。そして我らの戦士にも任期が迫ってきている。そこで軍の新体制の中で戦士隊は再編成されるらしい。俺達7人の戦士候補生から一挙に6人だ」

 

「やったぁ…これで…マーレ人に…なれる」ライナーは嬉しそうに言う。

「は?何が『やった』だ。お前はこの中のドべだろうが…。一人余るんならお前だろ」

「…なんだと」

「お前の長所は何だよ。体力か?頭脳か?射撃か?格闘術か?どれも違うよな?お前が評価されたのは試験で綴ったマーレへの忠誠心だろ?

 

それにしちゃ尊敬するぜ。毎日毎日隊長への媚びへつらいを欠かさねぇ。島の悪魔共はボクが必ず皆殺しにしてみせますってな」

 

「島の奴らは世界を恐怖に貶める悪魔だろうが!!」

「うお…」

「奴らを殺さなきゃまたいつか殺戮を繰り返すんだぞ!?お前は俺達の任務を馬鹿にするのか?それともお前はフリッツ王を支持するエルディア復権派の残党か!?」

「は…!?」

「そうだろ!!間違いない!!俺が隊長に報告してやる!!」

「てめぇ…!!ふざけんな!!」

 

バコッ!!  ライナーはポルコ(ポッコ)にグーでぶたれて倒れる。

「島の恨み節くらい誰だって言えんだよ!!」

「うぅ…」

「てめぇは一人で留守番して13年待つんだな!!」

「クッソぉ…」ライナーは地面に這いつくばって泣いている。

 

「もう行こーぜ!!」ポルコ

「ライナーすまない…」マルセル(ポルコの兄)

「泣き止んだらすぐに来いよー。遅いと俺がマガト隊長にどやされんだからさ」コルトはそう言い、先頭をきって皆を連れていく。

 

 

 

「立ってよライナー」ベルトルトがライナーに手を差し出す。ライナーはベルトルトの手をしっかり握って立ち上がる。

「13年も…待ってられない」

「え?」

「俺は…マーレ人になって母さんと父さんと3人で暮らしたいんだ」

「どういうこと?」

「それは…言えないけど…」

「まだ13年待つって決まってないよ。継承権を与えるのはポルコじゃない。マーレ軍が決めるんだから」

「でも…あいつの言う通り俺はドべだし…」

「そうかなぁ?忠誠心は大事だと思うけど…ねぇ?君もそう思わない?アニ」

 

「え?…何?聞いてなかった」アニは一人で虫を踏んづけて遊んでいた

「さぁ行こう」アニは一人で走り出す。ベルトルトとライナーもつられて走り始める。

 

「でも…いいの?」

「え?」

「そんな目標があるのに…13年しか無いんだよ?」

「…13年で英雄になるんだろ?世界を脅かすパラディ島の悪魔を成敗すれば、エルディア人を…いや世界を救えるんだ。そしたら俺は世界一の自慢の息子になれるのに…」

ライナーは訓練所の高い壁を見上げながらそう言う。

 

 

 

一方同じ時のパラディ島 壁の中 ウォール・マリア南のシガンシナ区。エレンは川辺の草地に足を投げ出して座って、ぼーっと壁の方を見つめていた。

「はぁ…何か起きねぇかなぁ…」

 

タッタッタ… アルミンが何か本を抱えてエレンの元へ走ってやってくる

「エレンここにいたんだ」